片桐大忍老師
アメリカに禅を広めたことで有名な鈴木俊隆老師と同じ時期に、アメリカ中西部で禅を広めたのが片桐大忍老師(1928-1990)だ。鈴木老師が活動されたカルフォルニアと違い、ミネソタなどのアメリカ中西部は保守的なキリスト教文化の土地である。その地で長年にわたり布教活動を続け、生活に密着した禅の教えを広めたのが片桐老師です。
私が初めて片桐老師にお会いしたのは1983年。当時、私はミネソタ大学大学院の物理科に留学していました。ミネソタに在住する日本人は少なく、日本人僧侶が禅を教えているというのも初耳でした。宗教に興味がなかったのですが、物珍しさから、片桐老師の法話を聞くためにミネソタ禅センターを訪ねました。
ミネソタ禅センターはミネアポリス市内にある大きな湖の畔の住宅を改装したものでした。会場となる部屋には、すでに十数名のアメリカ人、主に若い白人の男女が床にしいた座布団に座っていました。そのとき片桐老師は55才。周りのアメリカ人に比べ小柄であったが、その姿には強いオーラがありました。法話には碧巌録が使われていたのですが、仏教の専門用語が多く、仏教の知識がない私には難解であした。ただ、周りのアメリカ人参加者たちはその難解な話をできるだけ理解しようと努力していたように見えました。
法話が終わると質疑応答が行われました。仏教における「空」の概念の説明からマリファナがなぜ悪いのかまで、さまざまな質問が飛び交い、それに対して片桐老師はユーモアを交えながら真摯に答えていました。この質疑応答はとても楽しいもので、碧巌録の講義以上に、仏教を理解する手助けとなりました。この日以来、大学院を卒業する1986年まで、片桐老師の指導の下、アメリカ人の参禅者たちと一緒に、坐禅を取り入れた生活を続けることができました。
片桐老師には僧侶となった12人の弟子がいます。多くはアメリカ人で、そのうち数名は、老師の指導に従い、日本の禅寺で数年修行し、独身を貫き、禅センターを作って、現在でも各地で禅の指導をしています。アメリカにおいて仏教僧侶としての生活は経済的にとても厳しいのですが、それでも活動を続けられるのは、彼らをサポートしてくれる支援者が多いためです。老師から指導を受け小さな坐禅会のグループを作っている在家信者も多く、アメリカ中西部の小さな田舎町で数十年以上も活動を継続しているグループも珍しくありません。片桐老師が教える禅が単なる流行や知識ではなく、その土地の生活にしっかり根付いている証であると思います。
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